フルスクラッチ開発とは?メリット・デメリットと、パッケージ・ローコードとの違いと選び方【2026年版】
フルスクラッチ開発とは、完成済みの業務パッケージやSaaSを導入するのではなく、自社の要件に合わせてシステムの機能や構成を設計し、実装する方法です。プログラミング言語のフレームワークやクラウド、認証や決済といった外部サービスなどの既存技術は活用します。対になる言葉はパッケージ開発で、あらかじめ用意されたソフトウェアを導入し、設定や一部の改修で自社に合わせていく方法を指します。
ただ、いまこの言葉が気になっている人の多くは、定義だけを知りたいわけではないはずです。SaaSで済むことが増え、ローコードで作れる範囲が広がった。そのなかで「わざわざ自社向けに作るのは時代遅れではないか」という疑問と、「うちの業務は既製品では収まらない気がする」という感触の、両方を抱えている。Enlyt(エンライト)への相談でも、この2つが同時に出てくることがあります。
この記事では、フルスクラッチの意味とメリット・デメリットを押さえたうえで、自社のどこを既製品で賄い、どこを個別に作るかを判断するための材料を、Enlytが実際に手がけた案件をもとに整理します。
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目次
フルスクラッチ開発とは。スクラッチ開発との違い
「スクラッチ開発」と「フルスクラッチ開発」は、ほぼ同じ意味で使われています。名称は「ゼロから」「最初から」を意味する英語の「from scratch」に由来します。そこに「フル」がつくと、完成済みのパッケージを土台にしないことを強調した言い方になります。実務では区別せずに使う会社がほとんどで、この記事でも同じものとして扱います。
気をつけたいのは、「ゼロから」の意味です。現在のフルスクラッチ開発は、フレームワーク、クラウドのサービス、認証や決済の外部サービスといった既存技術を活用し、案件に応じてAIによるコード生成も利用します。それらを使わないという意味ではありません。使ったうえで、自社の業務の流れや、サービスの独自の仕組みにあたる部分を、自分たちの要件で設計して作る。それが現在のフルスクラッチです。
比較の相手として、この記事では「パッケージ・SaaS」「ローコード・ノーコード」「フルスクラッチ」の3つを取り上げます。完成済みの製品を導入することと、開発ツールを使って独自のアプリを組むことは別のものなので、分けて考えます。
フルスクラッチ開発のメリット・デメリット
メリット
- 業務の流れやサービスの仕組みに、システムの側を合わせられる
- 既存のシステムや外部サービスとの連携を、自社の要件で設計できる
- 自社で実装した機能は、追加や変更の優先順位を自社で決めやすい。ただし、利用する外部サービスの仕様変更には対応が必要です
- ソースコードや設計書を自社の資産として持てる。ただし、権利の帰属や引き継ぎの条件は契約で確認します
デメリット
- 既製品の標準機能を使う場合に比べ、初期費用が大きく、導入までの期間も長くなりやすい
- 要件を決める責任が発注側にも生じる。曖昧なまま進めると、認識のズレによる手戻りが起きやすい
- リリース後の保守、インフラや外部サービスの利用料、改修の費用と体制を、自社で持つか外部に任せるか決めておく必要がある
- 標準的な業務に対しては、既製品と比べて費用対効果が出にくい
「スクラッチ開発は時代遅れ」と言われる理由
SaaSやAIの広がりを受けて、「スクラッチ開発はもう時代遅れだ」という声を聞くことがあります。そう言われるのには、それなりの背景があります。
SaaSで済むことが増えた
勤怠、経費精算、会計、顧客管理、予約、ECのカート。こうした業務を支える機能が、月額のサービスで提供されるようになりました。標準的な業務であれば、作るより契約したほうが速く始められ、ソフトウェア基盤の保守も提供元に任せられます。
ローコード・ノーコードで作れる範囲が広がった
画面とデータの出し入れを中心とした業務アプリなら、専門の開発者と業務担当者が一緒に組める環境が整ってきました。社内の申請フローや台帳のようなものは、ここで足りることがあります。ツールの向き不向きは「ノーコード開発とは?メリット・デメリットからツール比較まで」で整理しています。
AIで開発の速度が変わった
コード生成のAIが実務で使えるようになり、開発の速度と工数の構造が変わりました。ここから「もうゼロから作る必要はない」という主張が出てきます。ただ、AIを使うかどうかと、既製品を導入するか個別に開発するかは、別の判断軸です。個別開発でもAIは活用できますし、それだけで費用や期間の優劣が決まるわけでもありません。AIを工程にどう組み込むかは「AI駆動開発 vs 従来の受託開発」で扱っています。
整理すると、前の2つは「標準的な業務では、既製品で対応できる範囲が広がった」という話です。3つ目は作り方の話で、既製品か個別開発かの判断とは切り離して考えるものです。この3つをまとめて「スクラッチは時代遅れ」としてしまうと、既製品に無理に業務を合わせて現場が疲弊するか、逆に既製品で足りるものをわざわざ作るか、どちらかの失敗に向かいます。
パッケージ・SaaS、ローコード、フルスクラッチの分かれ目
3つの方法の違いは、機能の多さではなく「どちらがどちらに合わせるか」にあります。
| パッケージ・SaaS | ローコード・ノーコード | フルスクラッチ | |
|---|---|---|---|
| 合わせる方向 | 業務をツールに合わせる | ツールの枠内で業務に寄せる | システムを業務に合わせる |
| 費用の構造 | 製品の購入・利用料に加え、導入設定や連携の費用がかかる。料金体系は製品によって異なる | ツールの利用料に加え、組む人の工数 | 初期開発費に加え、インフラや外部サービスの利用料、保守・改修費がかかる |
| 変更のしやすさ | 提供元の仕様と開発計画の範囲内 | ツールの機能・性能の範囲内。超えると急に難しくなる | 要件次第で自由。ただし変更にも工数がかかる |
| 権利と出口 | データに関する権利は利用者に留保されるのが一般的。ソフトウェアは提供元のもので、解約時のデータ移行の条件を確認する | ツールによって実行環境への依存度が異なる。コードの書き出し、データ移行、他の環境での運用が可能かを確認する | ソースコードの権利、納品物の範囲、改修や他社への引き継ぎの条件を、契約で確認する |
| 向いている状況 | 標準的な業務。すぐ始めたい | 要件がツールの機能・性能・運用条件に収まる。要件が変わりやすく試行したい | 業務やサービスそのものが差別化の源で、既製品の想定と流れが違う |
すでにSaaSやパッケージを使っていて、そこから「合わない部分」が積み上がっている場合もあります。合わない部分をExcelや手作業で埋めている、提供元に要望を出しても対応されない、複数のツールをまたぐ二重入力が増えた。こうした状態は、設定の変更、連携の追加、部分的な個別開発まで含めて、構成を見直すサインです。
どこを既製品で賄い、どこを作るか。事例で見る
フルスクラッチか既製品か、という二択で考える必要はありません。実際の案件では、土台を既製品に任せて差別化になる部分だけを作る形や、既存の資産を残して作り直す形が多くあります。
利用者側は既製のEC基盤、管理者側は個別開発にした例
クラウドファンディングのサービスを運営する会社では、プロジェクトの掲載期間が終わったあとも買いたいという利用者の声が多く、付属的な位置づけだったストア機能を、根本から作り直す必要が出ていました。重視したのは開発のスピードと、リニューアル後の機能拡張性です。そこで、利用者が見て買う側のサイトはShopifyを活用し、社内の運用フローを維持する必要がある管理者側のサイトはスクラッチで開発する構成にしています。「なぜ全部を作らなかったのか」「どこを作ったのか」の判断がはっきり分かれた例です。詳しくはクラウドファンディング事業者のECストア構築事例をご覧ください。
既製のEC基盤の上に、診断の部分だけを作った例
ヘアケア商品のEC診断の開発事例では、ECの基盤にはecforceという既製のサービスを使い、その上で「自分に合った商品を診断して買える」仕組みを個別に作りました。診断の分岐は基盤の機能を使い、診断画面の見た目や結果判定のロジック、診断結果から商品が選ばれた状態でカートに進む部分はEnlytが独自に実装しています。土台は買い、差別化になる部分だけを作る形です。
止まっていた開発を、既存の資産を活かして立て直した例
BtoBマッチングサイトのリニューアル事例では、デザイン会社がコーディングしたHTMLはあるのに、バックエンドを担当していた開発会社との連絡が滞り、実装が止まっていました。Enlytは既存のHTMLを別の形式に変換して活かし、バックエンドをRuby on Railsで作り直しています。フルスクラッチのリニューアルであっても、手元にある資産を捨てないことで費用と工期を抑えた例です。
独自のサービス構想を、アプリとして具体化した例
中学受験の情報メディアを長年運営してきた会社が、「受験生と学校を結びつけるマッチングサービス」という構想を持っていました。掲示板の運営は経験があっても、アプリ開発は初めてです。マッチングとスカウトという仕組みがサービスの中心にあり、その仕組み自体を自社の要件で設計する必要がありました。Enlytはコンペの提案時点で、開発するアプリをワイヤーフレームで形にして示しています。完成したアプリは、リリースから3か月で想定の3倍にあたる3万ダウンロードに達しました。詳しくは受験生と学校のマッチングアプリの開発事例にまとめています。
発注を判断するために、同じ条件で比べる5つの項目
フルスクラッチは、既製品の標準機能をそのまま使う場合に比べ、初期費用が大きくなりやすい方法です。ただ、既製品の利用料は利用者数と年数で積み上がる体系のものが多く、数年単位で見たときにどちらが高いかは案件によって変わります。開発方法を比べるときは、同じ利用人数、同じ対象業務、同じ運用年数をそろえたうえで、次の5つを並べると判断しやすくなります。金額の目安は「システム開発の費用相場【2026年】」に譲ります。
| 比べる項目 | 確かめること |
|---|---|
| 初期費用 | 導入設定、個別開発、既存システムとの連携、データ移行のどこまでが含まれているか |
| 継続費用 | 利用料、インフラ、保守、改修に加えて、社内の運用工数を含めるとどうなるか |
| 導入までの期間 | いつから使い始められるか。それまでの間の手作業や機会損失はどれくらいか |
| 要件への適合 | 必須の要件を満たせるか。合わせるために、どの業務を変える必要があるか |
| 将来の変更 | 機能の追加や、開発会社の変更を、どの条件で行えるか |
「自社の業務に合う」だけでなく、「そのために負担する費用と運用の責任が見合うか」まで並べて初めて、比較検討として成り立ちます。なお、補助金については「フルスクラッチなら使える」「使えない」と一概には言えません。制度ごとに対象となるツールや要件が決まっているため、検討中の制度名を挙げて相談するのが確実です。
Enlytが開発方法と開発範囲をどう整理するか
開発の工程そのものは、要件定義、設計、開発、テスト、リリース、保守という流れで、フルスクラッチでもほかの方法でも大きくは変わりません。工程ごとの説明は「アプリ開発の流れ」にまとめています。
フルスクラッチで違ってくるのは、契約の前の段階です。システムを業務に合わせられるということは、発注側と開発側の頭の中にある完成形が、ずれたまま進んでしまう余地も大きいということです。Enlytでは、契約の前に一次ヒアリングをしたうえで、開発範囲と機能、進め方を「要件まとめ」という文書にし、それをもとに概算見積りと提案書を出してから契約に進みます。この段階で、既製品で賄える範囲と個別に作る範囲、プラットフォームの選定、技術の方針、画面構成、スケジュールを見えるようにします。
先ほどのマッチングアプリの案件でコンペの時点にワイヤーフレームを示したのも、完成形を早く目に見える形にして、ずれを契約のあとではなく前に潰すためです。EC診断の案件のように、既製の基盤を活かして独自の部分だけを作るほうが目的に合うなら、そう伝えます。逆に、既製品に業務を合わせると現場が回らなくなると分かれば、個別に作る前提で要件を整理します。
要件がまだ言葉になっていない段階でも、相談はできます。その場合は、開発方法をすぐに決めるのではなく、要件の整理や小さな試作を先に置く進め方を提案します。相談のときに、いまの業務の流れと、すでに試した既製品で何が合わなかったかが分かっていると、作る範囲をその場で絞りやすくなります。発注側が要件定義にどう関わるかは「システム開発の要件定義はどう依頼する?」で扱っています。
まとめ
フルスクラッチ開発は、完成済みのパッケージを土台にせず、自社の要件に合わせてシステムを設計し実装する方法です。「時代遅れ」と言われる背景にはSaaSとローコードの広がりがありますが、それは標準的な業務についての話です。業務やサービスの仕組みそのものが差別化になっているなら、既製品に合わせることが遠回りになる場合があります。
判断の軸は「どちらがどちらに合わせるか」と、「そのために負担する費用と運用の責任が見合うか」の2つです。土台は既製品を使い、差別化になる部分だけを作る形もあれば、既存の資産を残して作り直す形もあります。時代遅れかどうかではなく、自社のどこを既製品で賄い、どこを作るかで決めるのが、無駄が少なくて済みます。
私たちエンライトでは、クライアント様の課題やアイデアをしっかり汲み取り、整理・ご提案をさせていただきます。開発方法をどうするかを先に決めてしまうと、フルスクラッチ開発以外の選択肢や、セキュリティリスク、保守管理やランニングコストの側面などを見落としてしまうこともあります。様々な業界、業種、開発方法で、お客様の状況に応じた整理をして取り組ませていただきますので、株式会社Enlytまでお気軽にお問合せください!
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