タイの空港で迷った無人オーダー体験|UIUXの違いから考える日本で使われにくい理由
みなさん、こんにちは。Enlytの久保です。
これまで日本では体験したことのない無人オーダー体験をした話をさせてください。
2025年の年末はスリランカで過ごしました。
スリランカに向かう途中のトランジットで
タイのスワンナプーム国際空港に立ち寄ることになりました。

ちょっと時間があったので、ハンバーガーショップのShake Shackに行きました。

ここで、これまで日本では体験したことのない無人オーダー体験をしました。
セルフオーダー端末で商品を選び、番号が振られた端末を受け取り、それをスキャンしてからクレジットカードで支払う──。
仕組みとしてはとても合理的で、「慣れれば便利」だと感じるものでした。
ただ、実際に使ってみると 次に何をすればいいのか分からず、数分間その場で立ち止まってしまう 体験をしました。
注文内容の選択は終わっている。
けれど、画面には次の行動が表示されない。
クレジットカード端末も、支払いを受け付けているようには見えない。
最終的には、隣にいた妻が
「これ、スキャンするんじゃない?」
と気づいてくれたことで理解できましたが、もし一人だったら、もう少し長く戸惑っていたと思います。
この体験を通して感じたのは、
テクノロジーは十分に便利になっている一方で、UIUX(使う体験)にはまだ改善の余地があるということでした。
本記事では、この実体験を起点に、
- タイの空港で使われていた無人オーダーの仕組み
- なぜ日本人はこのUIUXで迷いやすいのか
- 日本におけるセルフオーダー普及状況のデータ
- 初めて使う人の視点から見たUIUX改善ポイント
を整理していきます。
目次
タイの空港で体験した無人オーダーの仕組み
注文から支払いまでの流れ

今回体験した無人オーダーの流れは、以下のようなものでした。
- 無人のセルフオーダー端末(タッチパネル)で商品を選択
- 注文完了後、番号が割り当てられた物理端末(呼び出し用デバイス)を受け取る
- カウンター付近に設置されたスキャン端末に、その番号端末をかざす
- 注文情報が読み込まれた状態で、クレジットカード決済を行う
- 調理完了後、番号で呼び出され商品を受け取る
日本で一般的なセルフレジやモバイルオーダーと大きく違うのは、
「注文」と「支払い」の間に、物理的な番号端末を介している点です。
番号端末(ペイジャー)が担っているUIUX上の役割

この番号端末は、単なる呼び出しベルではありません。
- 注文IDを物理デバイスとして保持する
- POSシステムと注文内容を紐づけるキーになる
- 支払い処理を開始するためのトリガーとして機能する
UIUXの観点では、体験全体の要となる存在です。
ただし今回の体験では、この役割が UI上で一切説明されていなかった ことが、迷いの原因になりました。
なぜこのUIUXで迷ったのか(体験者視点)
次に何をすればいいかが表示されていなかった

セルフオーダー端末で注文を完了したあと、
- 「次は何をするのか」
- 「どこに進めばいいのか」
といった 次のアクションを示すUIがありませんでした。
日本のセルフレジや券売機では、
- 注文完了後すぐに支払い画面へ遷移する
- 「お会計へ進む」といった明確な導線が表示される
ことが一般的です。
そのため、画面が切り替わらず静止した瞬間に、
「……これで終わり?」
という状態になりました。
支払い端末が“使える状態”に見えなかった
クレジットカード端末自体は設置されていましたが、
- カードをかざしても反応しない
- 操作を促す表示がない
- 今が「待ち」なのか「操作待ち」なのか分からない
という状態でした。
システム的には
「番号端末をスキャンしないと支払いに進めない」
仕様なのですが、それがUIUXとして共有されていません。
「番号端末=キー」という前提がユーザーに伝わっていない
番号端末は、この体験の中で
最も重要なオブジェクトにもかかわらず、
- 何のためのものか
- いつ使うのか
- どこにかざすのか
が一切説明されていませんでした。
結果として、
- 呼び出しベルだと誤認する
- 受け取ったまま待ってしまう
- 支払いに進めず詰まる
というUIUXの断絶が起きます。
日本ではこの仕組みはどれくらい使われているのか
日本のセルフオーダーは「事前決済一体型UIUX」が主流
日本の飲食店や空港で主流となっているセルフオーダーは、
注文と決済を同時に完結させるUIUXです。
羽田空港 第1ターミナル「Sora chika」フードコート
2025年開業の羽田空港第1ターミナル地下1階「Sora chika」では、
- O:der ToGo(事前注文・決済)
- O:der Kiosk(店頭セルフオーダー)
- O:der Signage(デジタルサイネージ)
- グローリー製セルフオーダーKIOSK
を組み合わせた、国内でも先進的な導入が行われています。
出典:PR TIMES
羽田空港 第3ターミナル「DIVERSITY DINER HND」
国際線ターミナルの「DIVERSITY DINER HND」では、
- セルフオーダー利用率:約90%
- キャッシュレス決済比率:約80%
- 日本語・英語・中国語の多言語対応
といった成果が報告されています。
出典:グローリー公式導入事例
これらの事例に共通しているのは、
UIの指示に従えば迷わず完結する体験設計です。
ペイジャー連動型が日本で広がりにくい理由
日本でも、物理的な呼び出しベルと連動したセルフオーダーの事例は存在します。
リンガーハット(ジョイフル本田瑞穂店)
- セルフオーダー端末で注文・決済
- 決済完了と同時に呼び出しベルを自動発行
ただし、
- 導入初期の利用率は約20%
- 案内掲示やスタッフサポート強化で40%以上に改善
と、UIUX理解を補助する運用が不可欠だったことも示されています。
データから見る、日本人がUIUXに求めているもの
セルフオーダー利用率は急速に伸びている
リクルート「ホットペッパーグルメ外食総研」の調査によると、
セルフオーダーの利用経験率は、
- 2021年:26.0%
- 2025年:67.5%
と、短期間で大きく伸びています。
出典:株式会社リクルート
セルフオーダーそのものが、敬遠されているわけではありません。
それでもUIUXのハードルは高い
一方で、世代別に見ると差があります。
- 20〜30代:利用経験率 約80%
- 60代:利用経験率 約50〜55%
出典:株式会社リクルート
日本では特に、
- 後ろの人に迷惑をかけたくない
- 操作で止まることへの心理的負担
- 「分からない」と言いにくい空気
がUIUXのハードルになります。
無人オーダーUIUXの改善ポイント(体験からの示唆)
次のアクションを必ずUIで示す
- 注文完了後に「次は〇〇をしてください」と表示
- 画面遷移やアニメーションで行動を誘導
- 音声ガイダンスで補助
沈黙するUIは、不安を生みます。
物理デバイスの意味をUIUXとして翻訳する
- 「この端末があなたの注文番号です」
- 「支払い時に、こちらへかざしてください」
物理とデジタルの関係を、
ユーザーの言葉に落とすUIUX設計が重要です。
「慣れれば便利」ではなく「初回で分かる」体験設計
日本市場では、
- 学習前提のUIUX
- 使い方を覚えることが前提の設計
は広がりにくい傾向があります。
最初の30秒で迷わないこと。
これが無人オーダー体験の成否を分けます。
まとめ
今回の体験を通して感じたのは、
- 技術的にはとても合理的
- 仕組み自体は完成している
- しかしUIUXにはまだ改善余地がある
ということでした。
特に日本では、
初めて使う人が迷うUIUXは、
それだけで使われなくなるリスクを持つ
という現実があります。
無人オーダーや店舗DXが進む今だからこそ、
「便利かどうか」ではなく、「どう感じたか」
を起点にUIUXを考えることが、より重要になっていくと感じました。
おわりに(個人的なメモとして)
今回の無人オーダー体験は、
「この仕組みは良い・悪い」という話というより、
UIUX次第で体験の印象はここまで変わるんだなという気づきが大きかったです。
普段、プロダクトは
「機能が揃っているか」「技術的に成立しているか」で語られがちですが、
実際に使う側としては、
- 次に何をすればいいか分かるか
- 迷ったときに立ち戻れるか
- 初めてでも不安にならないか
といった、かなり感覚的な部分が体験を左右します。
最近は仕事でも「UIUX」という言葉をきっかけに声をかけてもらうことが増えましたが、
こうした日常の中で感じた違和感を言語化すること自体が、
UIUXを考える一番の出発点なのかもしれないと感じています。
このブログも、
答えを出すというよりは、
「こういう体験、ありませんか?」と共有するためのメモとして書いてみました。




