
TVアプリに最適なUI/UX設計は?成功の秘訣を初公開
目次
はじめに
近年、NetflixやAmebaTV、Amazon Prime Videoなどの映像サービスの多様化と、スマートフォン・PC・スマートテレビといった視聴デバイスの進化により、動画視聴のスタイルは大きく変化しています。このような環境下で、TVアプリには日本人ユーザーのライフスタイルや視聴習慣に最適化されたUI/UX設計がますます重要になっています。
本記事では、私たちが実際に手掛けたTVアプリ開発の知見をもとに、現代に求められるTVアプリの条件と、日本人ユーザーの体験価値を高めるUI/UX設計のポイント・実例を詳しくご紹介します。
なぜTVアプリにUI/UXを求めたのか?
昨今「テレビ離れ」が進む一方で、NetflixやTVer、AmebaTVなどの動画配信サービスの需要はますます高まっています。多くのユーザーが、これらのサービスが提供するシンプルで快適なUXに慣れ、従来のテレビ視聴体験に物足りなさを感じるようになっています。
そのような背景から、
- 「いけてるアプリを作ってほしい」
- 「直感的に使えてテレビ体験ができるアプリを提供したい」
というご要望をいただき、私たちは今の時代に合った、しかも日本のユーザーが本当に使いやすいテレビアプリを目指して開発を始めました。
TVアプリ開発における主な課題
日本市場の特性とその背景
日本のTVアプリ市場には、いくつか独自の特性とユーザー習慣があります。
その背景には、長年にわたり家庭の中心にテレビがあり、世代を超えて使われてきたという歴史があります。
- リモコン操作で完結する
日本の家庭では、リモコンの物理ボタン(矢印キー・OK・戻る)を使った操作が長く親しまれてきました。音声操作やタッチパネルはまだ一般的ではなく、多くのユーザーが直感的にリモコン操作できることを重視しています。そのため、リモコンで迷わず操作できないアプリは、利用者のストレスや離脱につながりやすい傾向にあります。
- シンプルで明快なデザインが好まれる
派手な演出よりも、ひと目で分かる・迷わないデザインが日本市場では支持されています。これは、幅広い年齢層がテレビを利用しており、特に高齢者やITリテラシーが高くない層にも配慮が必要なためです。複雑なUIは、視聴体験の妨げとなり、利用継続率の低下を招きます。
- 高速な反応が求められる
日本のユーザーは、リモコン操作に対して即座の反応を期待しています。読み込み遅延やフリーズが発生すると、すぐに不満を感じてしまい、アプリの利用自体をやめてしまうケースも少なくありません。これは、地上波放送の「すぐ見られる」体験が基準になっているためです。
- 日本語字幕や番組表、放送局別の分類に慣れている
テレビ放送の文化が根付いているため、ユーザーは日本語字幕や番組表、放送局ごとの分類など、従来のテレビで慣れ親しんだ機能をアプリにも求めます。これらが備わっていないと、使いづらさや違和感を覚えやすくなります。
TVアプリに求められる要素とその理由
こうした日本市場の特性を踏まえると、TVアプリには以下のような要素が求められます。
- 親しみやすさと最新性の融合
長年テレビを使ってきたレガシーユーザーと、動画配信サービスに慣れた若年層の両方に受け入れられる必要があります。どちらか一方に偏ると、もう一方のユーザーが離れてしまうため、親しみやすさと最新性をバランスよく取り入れることが重要です。
- 各年齢層・ライフスタイルに合ったパーソナライズ
家族全員で使うケースが多いため、年齢やライフスタイルに応じたパーソナライズ機能が求められます。これが不十分だと、ユーザーごとに最適な体験を提供できず、満足度の低下につながります。
- リモコンでの直感的な操作
物理リモコンが主流である以上、複雑な操作や分かりにくいUIは大きな離脱要因となります。直感的に操作できる設計が、ユーザーのストレス軽減と利用継続の鍵となります。
ユーザー調査とUI/UX設計
まずはじめに、日本の映像サービス利用傾向、UIのトレンド、競合アプリの分析、ペルソナ設計を通して、ターゲットユーザーの利用シナリオを明確化しました。
競合比較から見えた日本のTVアプリの傾向:
アプリ | UI | UX | リモコン対応 | 対応デバイス |
TVer | シンプルで見やすい | スムーズで快適 | 非常に良い | WEB、PC、スマホ、TV |
Netflix | モダンで洗練されている | 高度にパーソナライズ | 良好 | WEB、PC、スマホ、TV、ゲーム機 |
AbemaTV | ライブ重視でシンプル | リアルタイム体験に強み | 良好 | WEB、PC、スマホ、TV、Nintendo Switch |
U-NEXT | 日本人に親しみやすい | 明確で一貫性のある体験 | 良好 | WEB、PC、スマホ、TV、ゲーム機 |
Amazon Prime | やや複雑で煩雑 | 一貫性に課題 | 最適化不足 | WEB、PC、スマホ、TV、ゲーム機 |
この分析をもとに、グローバルで成功している映像サービスのUIトレンドと、日本市場で求められる親しみやすさ・操作性の両面を丁寧に検討し、その上で新たな視点やアイデアを加えた独自のUI/UX設計を行いました。
単なる模倣ではなく、それぞれのサービスの強みやユーザー行動を深く理解したうえで、日本の視聴文化に最適化されたアプリ体験をゼロベースでデザインしています。
ペルソナ設計とターゲットの明確化
NHK、総務省(MIC)、市場レポート(2021-2024)を基に、日本の年齢層ごとのテレビ・ストリーミング利用傾向を分析:
年齢層 | 主なデバイス | 特徴 |
60歳以上 | 従来型テレビ、タブレット | 伝統的テレビを好む、OTT利用は少ない |
40-59歳 | スマートTV、スマートフォン | 伝統的テレビとOTT(特にYouTube、Netflix)を併用 |
20-39歳 | スマートフォン、スマートTV | 選択的でパーソナライズされたコンテンツを好む |
20歳未満 | スマートフォン | YouTube、TikTok、AbemaTVを主に利用 |
参考:
令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 報告書
1日の平均的な視聴が最も多い年代 テレビは60代が94.7%、YouTubeは10代が98.0%、動画配信サービスは20代が69.2%
今回の開発でのターゲットユーザーの掘り起こし
今回のTVアプリ開発では、従来型テレビユーザーとストリーミング世代の両方を取り込むことを重視しました。
特に、
- 既存のテレビ習慣を持ちながらも新しいサービスに関心がある40-59歳
- 日常的にスマートデバイスで動画視聴を楽しむ20-39歳
をメインターゲットとし、それぞれの視聴スタイルや操作習慣に最適化したUI/UX設計を目指しています。
ペルソナ1:田中 浩(52歳・男性・マネージャー)
- 家族構成:既婚、2人の子持ち
- 居住地:日本
- テクノロジー習熟度:中~上
- 使用デバイス:スマートTV、Androidスマートフォン、タブレット
- 行動パターン:
- 夕方にNHKやTBSでニュース、スポーツを視聴。
- 週末や深夜にNetflix、TVer、Amazon Primeで映画やドキュメンタリーを視聴。
- 日本語字幕付きコンテンツを好み、一時停止・巻き戻し機能を活用。
- 家族とアカウントを共有、家族での視聴も。
- 目標:
- 年齢や好みに合った高品質なコンテンツ視聴。
- 伝統的なテレビとストリーミングの柔軟な融合。
- シンプルで使いやすいインターフェース。
- 家族全員でのエンターテインメント体験。
- 課題:
- サービスの多さに混乱、選択・管理が困難。
- 一部のプラットフォームのUIが複雑でリモコン操作に不向き。
ペルソナ2:山田 愛子(28歳・女性・事務職)
- 家族構成:独身、一人暮らし
- 使用デバイス:iPhone、ノートPC、スマートTV
- テクノロジー習熟度:高
- ライフスタイル:忙しく、柔軟、個人体験を重視
- 行動パターン:
- 毎日、夕方や週末に視聴。
- 主にスマートフォンやノートPCで視聴、時折スマートTVにキャスト。
- Netflix、TVer、Disney+、YouTubeを利用、コンテンツ優先で選択。
- 韓国ドラマ、アニメ、海外シリーズを好む。
- コスト削減のため、友だちや恋人とアカウントを共有。
- 目標:
- 好きなタイミングで好みのコンテンツを視聴。
- シームレスでモダン、操作しやすいUI。
- 視聴習慣に基づく新コンテンツの提案。
- 短時間で新鮮なエンターテイメントの探索。
- 課題:
- コンテンツ過多による選択の負担。
- 好きなコンテンツが複数プラットフォームに分散。
- 繰り返すコンテンツや不正確なレコメンドに不満。
ペルソナ分析を通じて、家族全員が直感的に使えるシンプルなUIや、視聴履歴・レコメンド機能の充実が重要であると判明し、それぞれのライフスタイルや課題を分析し、誰もが迷わず快適に使えるUX設計を実現しました。
次に、こうしたニーズをどのように具体的なUXプロセスに落とし込んだかをご紹介します。
UXプロセスと具体的な工夫
① アプリ起動体験の最適化
- ロゴアニメーションを最小限に、即起動
- 起動後すぐに「おすすめコンテンツ」へ遷移
② ホーム画面の設計
- 行数を絞り、最も視聴可能性の高いカテゴリを上部に配置
- 視聴履歴や「続きから再生」を優先表示
③ リモコンでの操作性
- 矢印キー+OKのみで全操作が完結
- コンテンツにフォーカスすると簡単な説明+プレビューが表示
- 「戻る」ボタンの動作を一貫して設計し、混乱を防止
④ レコメンドの工夫
- 視聴履歴に基づいたレコメンドロジック
- トレーラーや短いレビュー動画を再生可能
アクション | プロセス | 感情 | 課題 | 改善機会 |
アプリ起動 | TVホーム画面からアプリを選択 | 期待、ワクワク | アプリの読み込みが遅い、ロゴアニメが長い | 読み込み速度向上、アニメーションの簡略化 |
ホーム画面アクセス | コンテンツ行が表示 | やや混乱 | コンテンツ行が長すぎ、サムネイルが重い | 初期表示行を減らし、パーソナライズ優先 |
レコメンド視聴 | サムネイルにカーソルを合わせて説明を確認 | 迷い | 説明が不十分、トレーラーや短いレビューなし | 簡潔なポップアップ説明、クイックプレビュー |
気分/ジャンルで検索 | サムネイル間を移動して選択 | ためらい、やや興奮低下 | 視聴済みやリスト追加の状況が不明 | 「視聴済み」「未完」「リスト内」アイコン |
視聴決定 | コンテンツ選択、「再生」を押す | 満足(適切な選択時) | 選択プロセスが長く、ビデオ読み込みが遅い | リモコン応答速度の向上 |
UI/UX設計のアプローチ:課題定義から導いた新しいテレビ体験
今回は、まず既存の主要な動画配信プラットフォーム(国内外問わず)のUI/UXを徹底的に分析しました。特に、テレビという視聴環境特有の課題に焦点を当てています。
課題定義と解決の方向性
主な課題:
- 一部のプラットフォームに見られる複雑なUI設計は、リモコン操作との相性が悪く、ユーザー体験を損なっている。
- コンテンツが豊富すぎることで生じる「選択の過負荷」が、視聴開始までの障壁となっている。
解決の視点:
- リモコンで直感的に操作できるインターフェース
- 短時間でコンテンツを選択できる情報構成
こうした設計思想の背景には、「選択のパラドックス(Paradox of Choice)」という心理学的理論があります。選択肢が多すぎると人は迷いやすく、結果的に不満や疲労感を覚える傾向にあります。私たちはこの理論をふまえ、コンテンツの見せ方(サムネイル、タイトル、カテゴリ、レコメンド)の最適化により、「短時間で満足のいく選択」を可能にすることを目指しました。


TVアプリに最適な「10-foot UI」思想の採用
テレビアプリは「2〜3mの距離からリモコンで操作される」ことを前提にした10-foot UIの概念が重要です。私たちはこのガイドラインに沿って以下を徹底しました。
- 大きな文字と視認性の高いサムネイル
- リモコンでの上下左右+決定ボタンだけで操作可能なナビゲーション
- 最小限の階層構造で迷いを減らすUX
- 高コントラストかつシンプルな配色設計

さらに、Google TVやApple TVなどの最新ガイドラインも参考に、国内外の事例を研究したうえで、日本のユーザー文化や視聴習慣に合わせてチューニングしています。

お客さまからの声と評価
完成したテレビアプリは、実際にお客様の局内や他局の方々、コンテンツサプライヤー様にデモ会を行っていただいた後、視聴者から高評価を得ました。
- 「動作が軽くて、わかりやすい」
- 「今までのSTBよりもシンプルで良くザッピングも2倍ほど早くなった」
- 「直感的で映像コンテンツに最適化されたUI」
などの声が届き、評価も非常に高く、「これなら若年層にも届けられる」とのご意見もいただきました。




最後に:TVアプリ開発をご検討中の皆様へ
私たちEnlyt&SupremeTechでは、日本のテレビ・動画の視聴文化に根差しながらも、世界で培った映像配信UI/UXの知見を活かし、テレビアプリ開発をサポートしております。
未来の放送体験を、共に創りませんか?
モダンなAndroid TV / Fire TV 対応アプリの開発にご関心のある配信・放送関連・制作会社・エンターテインメント業界で活躍のみなさまはぜひお気軽にご相談ください。
Enlytとは?
株式会社Enlytは、ベトナム・ダナンに170名以上のエンジニアが在籍している開発拠点SupremeTechを持つシステム開発会社です。
システム開発に関わる設計・要件定義〜運用保守まで一気通貫で対応しており、特に動画配信システム開発に関しては、すでにアメリカや南米での実績もあり、その知見を持って日本のお客さまからの要望に合わせてパッケージ化し、開発のご提案をします。
日本の放送業界や動画配信に関連する業界の商習慣にも精通しながら、グローバルな観点もあり、お客さまからもスピーディな対応に好感を抱いたという声を多数いただいております。(詳しくはクライアントインタビューからご覧ください。)
また、WEBサイト・ECサイトの構築から、モバイルアプリ・LINEミニアプリまで、幅広くソフトウェアの開発を手掛けており、開発規模も大小様々なため、他ベンダーさまとの協業含め、チーム一丸となっての開発を心がけております。( 詳しくは開発実績ページからご覧ください。)
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